パトレイバー劇場版に於てもっとも見るべきシーンは刑事二人が廃墟となった東京を徘徊するシークェンスである。押井守監督は廃墟というものに対して非常にこだわりのある画を作り出す人で他の作品に於ても廃墟を主役として描いているものも多い。
川井憲次によるバリのガムラン風のアジア的なサウンドトラックを背景に描きこまれた東京のシーン、幻のようでありノスタルジックさと人々の生活感を見事に描き出している。これは『うる星やつらビューティフル・ドリーマー』に於ての友引町のシーンの拡大引用にも思える。他の作品でも同様であり後の『攻殻機動隊』、最新作『イノセンス』ではアニメとしての頂点に立つ廃墟を表現しているのではないか。
廃墟を見て何を感じるか、それは個々の人々によって捉え方も異なる、しかしここ数年の廃墟ブームというべき多数の写真集のベストセラーや映画への引用などは数しれない。昔繁栄したであろうその世界が崩れ行く様は人々の心を捉えて離さないのであろう。劇中では過去の象徴として描かれている廃墟であるが押井監督は見事な手腕でその本質をアニメの世界で描ききった唯一の監督であると思う。
もっともこの廃墟のシーン、アニメとしては失敗であろう、何しろ演技が無い。動くことが最低条件であるアニメに於て、さらに制限された時間の中に於てあれだけの廃墟のシーンを作品に割けるというのは恐ろしいことである。タルコフスキーのような、ヴェンダースのような都市や街並みを主役にした映画を撮る監督にとって都市や廃墟はそこにあるものである、しかしアニメにとっては一から作り出すものだ。アニメとしてこの無意味なシーンを挟み込むことで独自の空間を演出している。それが押井流の演技なのかもしれない。
押井守監督を語るときに必ず出てくるこの廃墟のシーン、じっくりと堪能して欲しいと思う、ウィルスによるレイバーの暴走はこの廃墟を引き立たせるための脇役でしかないのだから。

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